渓流幻想

黒いデジカメ

柳原　釣童

八月のある日、私は久しぶりに神田の古書会館で開かれた古書展を見に行った。帰り道、ＪＲ中央線の混んだ車内で、吊革につかまって窓の外を眺めていると、ふと昔馴染みの古本屋を覗いてみたくなって、Ｎ駅で途中下車した。その店は、私の学生時代からＮ駅の南口近くにある基督教関係の専門店で、新刊本と古書が同じ棚に並べて売られている、変わった本屋である。基督教関係書以外の本も、少ないながら置いてあるが、それらの本の中には、時々稀覯本と言っても良いような掘り出し物が安価で並んでいることがあるので、学生時代は、よく立ち寄ってみたものであるが、卒業してからは足が遠のいてしまい、たまにしか行くことがなくなった。その後、バブル期に駅前一帯の土地が買い占められたとき、裏通りのかなり辺鄙な場所に立ち退いたが、根強い常連客がいるとみえ、今も商売が続けられている。

夕方の7時過ぎ、Ｎ駅は帰宅を急ぐ人たちで混雑していたが、一歩裏通りに入ると、ひっそりと静まり返っていた。十数年ぶりとあって、その店を見つけるのに少し手間取ってしまった。昔と殆ど変わらぬ佇まいで、表から見ると一見普通の住宅のようであるが、入り口である一間ほどのガラス戸のドア―越しに、うずたかく積み上げられた本の山が見えた。

私は、岩波文庫の青帯で、現在品切れになっているのものを2冊見つけて購入した。見覚えのある瓜実顔の、地味で物静かな年輩の婦人が店番をしていた。

私は、その婦人に主人の消息を尋ねた。

「ご主人はお元気ですか？」

「十年前に、病死しました」と、彼女は静かに答えた。

「それはどうも、知りませんで…」私は、思いがけない答えに言葉が続かなかった。

私は支払いを済ませ、そそくさとその店を後にした。あたりはとっぷりと日が暮れて、行き交う車や、自転車のライトが眩しかった。

私は、さっき通った道の一つ手前の路地を右に曲がった。この道を通っても、駅に通じる線路脇の道に出られるはずである。街頭が殆どなく、暗い、車がやっとすれ違うことができる狭い道の両側には、民家の生垣が続いている。しばらく歩いていると、路上に明かりが洩れているところがあり、近づくと、軒下に、下向きに曲がった真鍮のパイプの先に、ラッパ型の傘を被った電灯が2個横に並んで、看板を照らしていた。

看板には、｢骨董、古民具｣と、白地に黒く横書きに書いてあった。文字の上には、小さな蛾が止まり、電灯の周りには数匹の蛾が飛び回っていた。私は、この静かな住宅街には、あまりそぐわない店だと思いながら、ガラス戸越しに店の中を覗いてみた。

薄暗い店の壁際や通路には、大きな甕や壷、樽、桶、刀剣などが雑然と置かれているのが見えた。私は、ガラスの引き戸を開けて中に入ってみた。七、八坪ほどの店内はがらんとして、人の気配は無かった。部屋の中央に、中に蛍光灯が取り付けられた、古ぼけた、不揃いな木製のショーケースが六個、背中合わせに店の入り口から奥に向かって一列に並んでいた。ケースの中には三段のガラスの棚があり、棚の上には、大小の皿、茶碗、壷、徳利、猪口、香炉、陶磁器の人形、招き猫、小さな仏像などが、蛍光灯の明かり浴びて、ぼんやりと浮かび上がっていた。ショーケースの上には、置時計、オルゴール、ラッパのついた蓄音機、古民具の糸車などが、とりとめも無く置かれていた。天井からは、石油ランプ、カンテラ、自在鉤、提灯、などが幾つもぶら下がり、壁には、水屋、箪笥、薬箪笥などの大物家具や一斗桝、火鉢、蒸篭などの民具が置かれ、壁の隙間には、掛け軸、掛け時計、柱時計、各種の面や、西洋の仮面が無造作に掛けられていた。翁の面がニヤニヤ笑っているようで無気味であった。

私は、ゆっくりと並べられている品物を見て廻った。もともと、書画、骨董の類には疎い私なので、すぐに興味を無くして店から出ようとした。そのとき、ガラス戸の付いた陳列棚に、いかにも古そうな陶器の茶碗などに混じって、￥20.000の値札の付いた、黒いデジタル・カメラが並んでいた。いかにも周りの品物とは不釣合いで、目立っていた。あまり古そうではなく、Ｏ社製の歴としたメーカー品のデジカメであるが、真っ黒というのはいかにも珍しかった。私は、現在使っているカメラが、先日釣った魚を撮影していて、魚の位置を変えようと手を伸ばしたとき、首から提げたカメラの下部が少し水に濡れて以来、調子が良くないことを思い出した。

ふと、人の気配を感じて振り向くと、いつのまにか店の主人と思しき年輩の人物が、薄暗い部屋の中に影のように立っていた。面長の、眉間に二本深い縦皺の入った、目が細く鋭い、いわゆる鷲鼻の、日本人離れした容貌をしていた。髪は、7：3で白髪の方が多い長髪を、後ろに紐で束ねていた。

「これは輸出仕様の珍しいもので、外国帰りのお客様から買いました｣と、彼は低い声で言いながら、そのカメラを棚から出してくれた。

私は、そのカメラを手に取って眺めてみた。同型のカメラは日本にもあり、私も同じ会社のデジカメを使っているので、使い方には困らないだろうと思ったが、「説明書はついていますか？」と、一応訊いてみた。

「アラビア語の説明書がついていますが、あまりお役に立たないと思います。Ｏ社の他の製品と、扱いは同じだと思いますが、あまり無理にはお奨め致しません」

私は、彼が私が欲しがっているのを承知で、そんなことを言って私の購買欲を煽っているのだと思った｡私は黙って財布から￥21.000を取り出して彼に渡そうとした。

彼は、私に￥1.000を返しながら、

「消費税は要りません。ひとつだけ前の持ち主から、くれぐれも気を付けるように言われていることがありますので申し上げますが、人物写真だけはお撮りにならないで下さい｣

私はびっくりして聞き返した。

「何故ですか？」

「変な話ですが、何か良くないことが起きるそうで、それで前の持ち主も手放されたらしいんです。私も、何が起きるのか確かめてはおりませんが、万一お客様に変なことが起きるといけないので、お売りしようかどうしようか、迷っております」と、彼は真顔でそんなことを言った。

私は、顔色の発色が悪いとか、顔が歪んで写るなどと言われるのではないかと心配したが、あまりにも荒唐無稽な話なので、逆に安心した。私はカメラを受け取って、その店を出た。

それから一ヵ月ほど経って、私はそのデジカメを持ってヤマメを釣りに近郊の渓流に出かけた。電池を入れ替え、新しいメモリーカードをセットして、出かける前に室内を撮影したり、外の景色を写してみたりしたが、写り具合には何の問題もなかった。

私は南Ａ川の源流・Ｍ沢に久しぶりに出かけてみた。Ｍ沢は、入渓点が見つけ難いこともあって釣り人が少なく、以前私はよく通ったものである。ところが、二十数年前の台風で、崖崩れの土砂がＭ沢を埋めてしまい、全く魚影が消えてしまった。それ以来、私はＭ沢に行ったことがなかったが、ふと、どの程度回復したのか確かめてみたいという気持が起きて、今回出かける気になったのである。

Ｍ沢の上には、以前有料道路だった周遊道路が通っているが、そもそも道路を造ったこと自体間違いだったようで、その後、台風が来るたびに崖崩れを起こし、未だに夜間は通行止めとなっている。私は、元料金所だった建物の下手に車を置いて、勾配のきつい、石ころだらけのＭ山の登山道を登って行った。登山道の右手の遥か下方に険しいＭ沢が見えた。この辺りは、登山道からはＭ沢に下降するルートが見つけ難く、また、仮令降りられたとしても険しくて遡行は難渋する。私は以前一度だけ降りてみたことがあるが、意外に魚影が薄く、苦労に見合うだけの釣果はなかったと記憶している。

やがて登山道は左にカーブし、登山道の下に埋められた大きな土管の中を通るＭ沢と交差した。Ｍ沢が、登山道のすぐ左手に見えるようになったところに、大きな堰堤があった。土管から堰堤までの距離は、2～30ｍしかないが、崖を埋め尽くすように生い茂った雑木が邪魔になって、道路からは川底の様子がよく見えない。二十数年ぶりとあって、以前どこから入渓したのか皆目見当が付かなかった。私は、とりあえず堰堤の上から釣りを始めたいと思い、堰堤のすぐ上の3ｍほどの崖を降りようとした。

私は道路際の叢にロッドを置き、崖を降りる途中そのロッドを取ろうとしたが、崖下まで滑り落ちてしまった。数日前の雨で、地盤が緩んでいたらしい。私は崖を攀じ登ろうとして、2回もずるずる滑り落ちてしまい、ウエーダーの膝や、フィッシング・ベストが泥で汚れてしまった｡まるで、蟻地獄に落ちた蟻のような情けない有様である。ロッド無しでは釣りが出来ないので、何とかロッドを回収したいと思った。3度目に、左手に生えている潅木の細い幹を、何本か束にして掴みながら漸く崖の途中まで登り、右手を思い切り伸ばしてやっとロッドを取ることができた。崖下から堰堤の端までは2ｍくらいしかなく、下手をすると堰堤の下に転落するところであった。

気がつくと、左手首に擦り傷ができて血が滲み、両掌や、シャツの両袖口は泥だらけになっていた。山道を登って息を切らしていた上に、崖を何回も滑り落ちるなど、激しい運動とスリルで心臓がどきどきしていた。腕や背中、肩の筋肉が痙攣し、体の震えがしばらく治まらなかった。自分では気づかなかったが、体中の筋肉を相当使ったらしい。渓流釣りは格闘技だと、このとき実感した。

しばらく休んで釣りを始めたが、小型のヤマメが姿を見せただけで、すぐに大きな滑滝に遭遇した。その上流にも滑滝が見え、私はまた滑りそうな厭な感じがして、その滝を敬遠し、道に戻ることにした。さっき滑った崖は、二度と登る気がしなかったので、崖から20ｍほど上流の、急斜面の木立の中に踏み跡を見つけて道に上がった。

再び登山道を歩きながら、私は記憶を喪失した人間のように、懸命に昔の記憶を取り戻そうとした。道の両側には、ススキを始め野草が伸び放題に伸びているものの、登山道にはかすかに見覚えがあったが、Ｍ沢に昔の面影を見つけることは出来なかった。入渓点を求めて300ｍほど登ってみたが、昔は道路からすぐ釣り場に降りられたのに、今は渓の大部分に高い護岸が施され、渓に降りる手がかりが見つからない。私は道路を引き返しながら、途中川岸に近づける場所を見つけて、渓を覗いてみた｡護岸の高さは3ｍほどあってとても降りられそうもないが、穏やかなＭ沢の流れが見えた。目の前にコンクリートの堰堤があり、堰堤の下は土砂で埋まってしまったのか、段差は10cmほどしかない。ちょうどそのとき、大型のヤマメが流れから背中を出して、その堰堤を遡っていくのが見えた。

私は、また100ｍほど戻り、やっと護岸の切れ目を見つけて入渓した。入渓してみると、私の朧な記憶とは異なる好渓で、全く新しい渓に生まれ変わっていた。川幅は広げられ、高い護岸に囲まれてはいるが、落ち込みと瀬が連続し、数多くのポイントがある。私は、クイル・ゴードン＃16をセットして釣り始めた。釣り始めてすぐに、落ち込みの肩から良型のヤマメが姿を見せたが、流れるフライに追いつけず、ヒットしなかった。次の落ち込みの脇で、18cmほどのヤマメがヒットした。その後、小型のヤマメが2尾釣れたが、私は先ほど見かけた大型のヤマメの姿が忘れられず、先を急いだ。

先ほど大型のヤマメを見かけた堰堤の上に一寸した落ち込みがあったので、慎重に狙ってみたがライズはなかった。しばらく遡ると、大きな深瀬があり、いかにも大物が潜んでいるような気がした。私は、フライを自分のオリジナル・フライ、クイル・チョードー＃14に替えて、瀬の上流にキャストした。フライが瀬の中央に差し掛かると、派手なライズがあり、合わせると25cmの幅広のヤマメが釣れた。9月半ばで産卵期が近いのだろう、少し錆が出ていた。私は、このサイズなら、良い写真が撮れそうだと思い、先日購入した黒いデジカメを取り出した。このカメラで撮る、第1号のヤマメである。

私はヤマメの口から鉤を外し、ヤマメに逃げられないようにネットに入れ、ネットのフレームをフェンスのように水面から少し出し、できるだけ日光を反射しないようにヤマメの向き変えた。ヤマメの動きが静かになったところを狙ってシャッターを押した。ピピッとシャッターの切れる音がした。ズーム・アップしたりしながら、3回目のシャッターを押して、ファインダーから眼を離してヤマメを見ると、そこにいる筈のヤマメがいない！何と言うことだ、ヤマメが忽然と消えてしまったのである。私には見えなかったが、ヤマメがネットから跳びだしてしまったのだろうか？

私は、デジカメの液晶モニターで、今撮った写真を再生してみた。写真は3枚ともきれいに撮れていた。私はどうにも腑に落ちなかったが、ヤマメが跳ねてネットから飛び出したのだろうと言うことで自分を納得させた。私はヤマメが釣れたポイントの写真を撮ったり、周囲の風景をデジカメに収めた。また、しばらく遡行していると木製の橋が見えた。橋の手前が通らずになっていたので、一旦登山道に上がった。橋の手前で、登山道は周遊道路から下ってくる道と合流していた。この辺りの景色にはかすかに見覚えがあったが、以前は、Ｍ沢はこの辺りからボサが酷くて先には進めなかったと記憶しているが、今は、川幅が広がり、沢沿いの登山道がずっと先まで伸びているようであった。私は、橋の袂から再度入渓して、どこまで行けるのか沢を詰めてみようと思った。

しばらく釣り上がってみたが、全く当たりがなかった。それどころか、走る魚影さえ認められない。私は先行者がいるのだろうと思い、せめて、沢の写真だけでも撮って帰ろうと考えた。少し進むと、見通しがよく利くところに出た。私は、Ｍ沢の写真を撮ろうとして、ファインダーを覗き込んだ。シャッターを押したとき、一瞬、遠くの河原に釣り人の後姿が見えたような気がした。ファインダーから目を離すと、河原には誰もいなかった。確かに、その釣り人は、長い餌釣りの竿を振って、上流に餌を送り込もうとしていた。錯覚か？私は、モニターを見てみたが、あまりにも画面が小さくて、遠くに写っている風景は判別できなかった。私は自分の気のせいにして、そのままカメラを仕舞って帰途についた。

夕食後、私はその日撮ったデジカメの写真を整理していた。いつものように、写りの悪い写真を消去し、良いものだけを残してパソコンに取り込んだ。メモリーカードのオリジナル写真も、万一パソコンの画像が消えても良いように、念のためにそのまま保存した。

パソコンに取り込んだヤマメの写真を拡大してみた。最初の2枚は普通によく撮れている。3枚目の写真を見て、私は思わず息を呑んだ。僅かではあるが、鰓が動いている。静止画の筈が動いているではないか！生きている！私は、その他の写真を調べてみた。Ｍ沢の風景写真には、取り立てて異常はなかった。最後の1枚、私がファインダーの中に、釣り人の後姿を見たと思った写真を拡大して、今度は腰を抜かしそうになった。釣り人が、竿を動かして餌を投げているではないか！私は、落ち着くように自分に言い聞かせた。私は事実関係を整理し、事の真相を解明しようとしたが、どう考えてみても納得のいく答えを見つけることはできなかった。私は、動画のメモリーカードが存在するかどうか、明日Ｏ社に訊いてみようと思った。

翌朝、私は起きると同時にパソコンを立ち上げ、Ｍ沢の写真を開いてみた。昨日と同じだった。不思議なことに、ヤマメの写真のなかで最初の2枚が消えており、呼吸をしているヤマメの写真だけが残っていた。写真の中の釣り人は、相変わらず竿を振り続けている。私は午前9時になるのを待って、Ｏ社に電話を入れた。Ｏ社では、動画のメモリーカードは製造していないという。

2日過ぎて、テレビのローカル・ニュースや、新聞の都下版で、奥多摩に渓流釣りに行った釣り人が行方不明になっていると、大きく報道されるようになった。釣り人の車が、周遊道路の、Ｍ沢に下りる道の入り口付近で見つかったことも報道された。Ｍ沢一帯で大々的に捜索が実施されたが、その釣り人は4日経っても、まだ見つかっていない。

私の頭の中に、一つの疑問が生まれ、日が経つに連れて大きく膨らんだ。もしかしたら、あのヤマメや釣り人が、カメラのシャッターを押すと同時に消えたのは、このカメラがヤマメや釣り人を、メモリーカードの中に取り込んでしまったのではないのだろうか、と。私は、パソコンに取り込んだ写真を開いてみた。ヤマメは相変わらず鰓を動かしていた。次に、釣り人の写っている写真を開けて見た。釣り人は、画面の中をうろうろとせわしなく歩き回っていたが、そのうち、両手をメガホンにして、｢助けてくれー！｣と、周囲に向かって何回も叫んだ。私は、慌てて写真を閉じた。

「人がカメラの中に取り込まれる？まさか！そんな馬鹿な！」と私は、その疑問を懸命に打ち消そうとしたが、その疑問はある種の茸のように、猛烈な速さで成長した。あの古道具屋の店主が言った｢良くないこと｣とは、このことではないのだろうか？

私は、このことを是非確かめたいと思った。私は家の中を見回した。ソファーの上に、ペットの猫が寝ていたが、消えてしまうと可哀想だと思い、水槽の中の金魚を撮影することにした。私は、水槽を明るい窓際に持ってきて、3尾いる金魚の1尾を狙って、黒いデジカメのシャッターを押した。消えた！確かに金魚が1尾消えてしまった！

これで、私の疑問は解消されたが、こんなことは誰にも言えなかった。第一、こんな非科学的なことを誰が信じてくれるだろう。また、もし、このことが信じて貰えたとして、私は、それで一体どうなるというのだ。私は軽くて誘拐罪、最悪の場合、殺人罪に問われるかも知れないのだ！

私は、あの古物商なら何とかしてくれるかも知れないと考えた。私は、藁をも縋る気持で、そのデジカメを持ってＮ町の古道具屋のところに出かけた。ＪＲのＮ駅を降り、南口を出て、線路際の道を東に向かって歩き、3本目の路地を右に曲がった。確か、角を曲がって100ｍも行かないところにその店があった筈だが、どこを探してもその店は見つからない。私はその路地を何回か往復した後、近所の家の人に声を掛けて、その古道具屋のことを尋ねてみた。

｢この辺には、昔から古道具やさんは、一軒もありませんよ｣と、取り付く島もなかった。

私は夢でも見ていたのだろうか？それでは、今手に持っているこのデジカメは一体何だろう。これこそ、夢ではない証拠ではないのか。

私は帰宅して、この災いの種である、黒いデジカメを手に取ってつくづくと眺めた。そしてこのデジカメが存在する限り、これからも災いの種を蒔き続けるだろうと思った。私は、デジカメを裏庭の敷石の上に置き、ハンマーで叩き壊した。

翌日、奥多摩のＭ沢で、釣り人が奇跡的に無傷で発見されたというニュースが流れた。私の水槽には3尾の金魚が何事もなかったように泳いでいる。パソコンを開いてみると、Ｍ沢の写真は、すべて消えてしまっていた。（2003/11/5）